インデュースメントとは
インデュースメント(Inducement)とは、「誘い」「おとり」という意味で、本命の水準(オーダーブロックなど)の手前に、できる、小さな高値・安値を指す言葉です。スマートマネー系(SMC・ICT)の手法で使われます(呼び方や、定義は、解説書によって違います)。
「多くのトレーダーが、その小さな安値を、支えと見て買い、または、割れたら売ろうと、考える。その後、価格が、その安値を割って、本命の水準まで下げ、そこから反発する」と説明されることが、ありますが、これは、考え方(仮説)です。FXは、店頭取引で、他の人の注文は、見えません。そのため、実際に、そのような意図で、動いたのかは、外部から、確認できません。値動きの結果として、「小さな安値を割って、その先で、反発した」という形を、見ている、だけです。
ICT(Inner Circle Trader)と呼ばれるトレーダーの、考え方を、もとに、広まった手法、とされています(出典により、説明は違います)。学術的に、確立された理論では、なく、主に、個人トレーダーの間で、使われている考え方です。
上昇の場合(買い側)
上昇のあとの戻りの途中にある、小さな安値 = 誘い(インデュースメント)
→ この安値を、先に割ってから、本命の水準(OBなど)で、反発する、という考え方
下降の場合は、反対(戻りの途中の小さな高値)

上の図は、説明のために作った例です。上昇の直前の陰線(149.40〜149.50円)を、オーダーブロックとして、帯で示しています。高値149.95円をつけたあと、戻りの途中で、149.68円の小さな安値ができました。価格は、この安値を割り、帯の中の149.44円まで下げて、反発しています。実際の相場が、このようにきれいに動くことは、少ないです。
流動性スイープとの違い
どちらも、「ある水準を抜けて、反対に動く」という点で、似ています。違いは、見る場所と、目的です。
| インデュースメント | 流動性スイープ | |
|---|---|---|
| 水準の場所 | 本命の水準の「手前」にある、小さな安値(高値) | 同じ水準の安値(高値)など、目立つ水準 |
| 水準の大きさ | 小さい(戻りの途中の、小さな波) | 目立つ水準(複数回の反応など) |
| 役割 | 本命の水準に、価格を導く「誘い」 | 水準の外を、抜けて、戻る動き |
| 見るもの | その先に、本命の水準があるか | 終値が、水準の内側に戻るか |
流動性スイープは、別の記事で解説しています。インデュースメントは、「その先に、本命の水準(OBなど)がある」ことが、前提で、単なる、小さな安値の割れ、とは、区別されます。オーダーブロックも、別の記事で解説しています。ただし、「小さな安値」と「目立つ水準」の境目に、決まった基準は、ありません。
判断の条件
インデュースメントの判断条件も、解説書によって違います。よく紹介される、条件は、次のとおりです。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 全体の流れ | 上昇(下降)の流れが、ある |
| 本命の水準 | OBやFVGなど、反応を、待つ水準が、先にある |
| 小さな安値(高値) | 本命の水準の手前の、戻りの途中に、できている |
| 割れ(抜け) | その安値(高値)を、先に、割る(抜ける) |
| その後の反応 | 本命の水準で、反対方向に、動く |
「小さな安値」の決め方に、決まった基準は、ありません。スイング高値・安値の見方は、別の記事で解説しています。
計算例
誘いの位置と、割れた幅
例の水準は、次のとおりです(例の数値です)。
| 項目 | 価格 |
|---|---|
| 上昇の高値 | 149.95円 |
| 小さな安値(誘い) | 149.68円 |
| 誘いを割った足の安値 | 149.62円 |
| OBの範囲 | 149.40〜149.50円 |
| 戻りの最安値 | 149.44円 |
戻りの深さ = 149.95 − 149.44 = 0.51円(51pips)
誘いの位置 = 149.95 − 149.68 = 0.27円(27pips下)
誘いからOB上端まで = 149.68 − 149.50 = 0.18円(18pips)
誘いを割った幅 = 149.68 − 149.62 = 0.06円(6pips)
OB上端から、戻りの最安値まで = 149.50 − 149.44 = 0.06円(6pips)
平均的な値動きの大きさ(ATR)が、0.15円(15pips)だった場合、
誘いを割った幅 ÷ ATR = 0.06 ÷ 0.15 = 0.4
戻りの深さ ÷ ATR = 0.51 ÷ 0.15 = 3.4
誘いを割った幅は、ATRの0.4倍です。ATRについては、別の記事で解説しています。基準は、決まっていません。
基本の使い方
1. 本命の水準を、決める
OBや、FVGなど、反応を、待つ水準を、先に、決めます。
2. 誘いの安値(高値)を、見つける
その水準の手前、戻りの途中にある、小さな安値(高値)を、マークします。
3. 誘いに、すぐ、乗らない
小さな安値の近くで、反発を狙って、買うのは、「誘いに乗る」ことに、なる場合があります。その安値を、割られると、損切りに、かかります。
4. 本命の水準での反応を、確認する
誘いを、割ったあと、本命の水準に入ったときの、ローソク足の反応を、確認します。水準を、通り抜ける場合は、考えが、外れた、ということです。
5. 損切りと、目標を決める
損切りは、本命の水準の外側に、置く考え方が、あります。目標は、直前の高値(安値)などと、する考え方が、あります。
計算例:誘いのあと、OBで買う場合
OBの下端の5pips下の149.35円を損切り、目標は、150.20円とします(例の数値です)。
誘いの安値(149.68円)付近で買う場合(誘いに乗る)
エントリー 149.68円、損切り 149.35円、利確 150.20円
リスク = 149.68 − 149.35 = 0.33円(33pips)
リワード = 150.20 − 149.68 = 0.52円(52pips)
リスクリワード比 = 52 ÷ 33 ≒ 1.6
OBの上端(149.50円)に、指値で買う場合
エントリー 149.50円、損切り 149.35円、利確 150.20円
リスク = 149.50 − 149.35 = 0.15円(15pips)
リワード = 150.20 − 149.50 = 0.70円(70pips)
リスクリワード比 = 70 ÷ 15 ≒ 4.7
OBで反発した陽線が確定した、終値(149.58円)で買う場合
エントリー 149.58円、損切り 149.35円、利確 150.20円
リスク = 149.58 − 149.35 = 0.23円(23pips)
リワード = 150.20 − 149.58 = 0.62円(62pips)
リスクリワード比 = 62 ÷ 23 ≒ 2.7
上昇が進み、誘いの水準を、上に戻した後の、149.80円で買う場合
エントリー 149.80円、損切り 149.35円、利確 150.20円
リスク = 149.80 − 149.35 = 0.45円(45pips)
リワード = 150.20 − 149.80 = 0.40円(40pips)
リスクリワード比 = 40 ÷ 45 ≒ 0.9
| エントリー | 価格 | リスク | リワード | リスクリワード比 | 損益分岐の勝率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 誘いの安値付近で買う | 149.68円 | 33pips | 52pips | 1.6 | 約38.5% |
| OBの上端に指値 | 149.50円 | 15pips | 70pips | 4.7 | 約17.5% |
| OBで陽線の確定後 | 149.58円 | 23pips | 62pips | 2.7 | 約27.0% |
| 誘いの水準を戻したのを確認 | 149.80円 | 45pips | 40pips | 0.9 | 約52.6% |
損益分岐の勝率 = 1 ÷(1 + リスクリワード比)
リスクリワード比 1.6 → 1 ÷ 2.6 ≒ 38.5 %
リスクリワード比 4.7 → 1 ÷ 5.7 ≒ 17.5 %
リスクリワード比 2.7 → 1 ÷ 3.7 ≒ 27.0 %
リスクリワード比 0.9 → 1 ÷ 1.9 ≒ 52.6 %
この例の、損切り149.35円は、OBの下端の少し下に置いた、事前に決められる位置です。ただし、「誘いの安値付近で買う」場合、149.35円という深い損切りを、置く必要があり、リスクは、33pipsと、大きくなります。もし、誘いの安値の8pips下(149.60円)に、浅い損切りを置いていると、この例では、価格は、149.44円まで下げるため、損切りにかかり、損失は8pipsです。その後の反発には、乗れません。浅い損切りは、損失は小さいものの、「誘い」で、損切りにかかりやすい、ということです。指値は、価格が、OBまで戻らず、エントリーできないことも、あります。スプレッドや、約定のずれは、考慮していません。
確認を重ねるほど、ダマシは減りやすくなりますが、エントリーが遅れ、リスクリワード比は、下がります。確認が遅れて、リスクリワード比が、1を下回るときは、目標を広げるか、見送る判断も、必要です。
注意点
1. 誘いを割ったあと、そのまま下げ続けることがある
誘いの安値を、割ったあと、OBでも、反発せずに、通り抜けることが、あります。そのときは、「誘い」ではなく、単なる、下落の継続です。足が、確定して、反発が、確認できるまで、区別できません。
2. 後から、見つけやすい
過去のチャートでは、「ここが誘いだった」と、後から、簡単に、見つけられます。しかし、リアルタイムでは、どの小さな安値が、誘いか、分かりません。小さな安値は、数多く、できるため、後から、都合のよいものを、選べてしまいます。
3. 「誘い」の意図は、確認できない
価格が、小さな安値を割って、反発した、という値動きの結果は、確認できます。しかし、誰かが、注文を狙って、動かしたのかは、確認できません。仮説として、扱いましょう。
4. 判断の基準が、解説によって違う
小さな安値(高値)の決め方、OBとの組み合わせ方などは、解説書によって、異なります。使う基準を、決めて、後から、変えないようにしましょう。
5. 時間足によって、見え方が、変わる
時間足が、短いほど、小さな安値が、数多く、できます。長い時間足の水準を、重視する、という考え方も、あります。
6. ブローカーによって、足の高値・安値が違う
ブローカーによって、レートが違うため、小さな安値を、割った、割らない、が、微妙に、変わることが、あります。
7. ダマシ・負けが、続くことがある
たとえば、OBで反発した陽線の終値(149.58円)で買い、損切り149.35円にかかる場合、損失は23pipsです。これが3回続くと、合計−69pipsです。その後の1回の利益が、62pipsなら、合計は−7pips、75pipsなら、+6pipsです。この数字は、あくまで例ですが、損失を、利益で取り返せるかは、状況によって、変わります。環境認識については、別の記事で解説しています。
初心者が間違えやすいポイント
小さな安値を割れば、必ず、反発すると考える
割ったあと、そのまま、下げ続けることも、あります。損切りを、先に、決めておきましょう。
誘いの安値で、すぐ、買う
その安値を、割られると、損切りに、かかる場合があります。本命の水準での、反応を、待ちましょう。
すべての小さな安値を、誘いと考える
小さな安値は、数多く、できます。その先に、本命の水準があるかを、先に、決めましょう。
本命の水準を、決めずに、使う
インデュースメントは、本命の水準と、セットで、考えるものです。水準が、なければ、単なる、小さな安値の割れです。
検証せずに、使う
「誘いのあとは、反発しやすい」と聞いても、実際の成績は、通貨ペア・時間足・ルールの組み合わせで、変わります。自分で、確認しましょう。
まとめ
- インデュースメントは、本命の水準(OBなど)の手前にある、小さな安値(高値)で、「誘い」「おとり」と、呼ばれる
- 「誘いを割って、本命の水準まで、動く」という説明は、仮説で、外部から、確認できない
- 流動性スイープは、目立つ水準の外を抜けて戻る動き。インデュースメントは、その先に本命の水準がある前提の、小さな水準
- 例では、高値149.95円から、誘いの安値149.68円(27pips下)、OB149.40〜149.50円、戻りの最安値149.44円。誘いを割った幅は6pips(ATRの0.4倍)
- 例では、OB上端に指値(4.7)、OBで陽線の確定後(2.7)、誘いの安値付近(1.6)、誘いの水準を戻したのを確認(0.9)。損切り位置は、OBの下端の少し下で、指値は、エントリーできないこともある
- 損益分岐の勝率は、リスクリワード比4.7で約17.5%、2.7で約27.0%、1.6で約38.5%、0.9で約52.6%(スプレッド除く)
- 後から見つけやすく、リアルタイムでは、どれが誘いか、分からない
- 単独では判断できない。必ず機能するわけではない
本記事は情報提供を目的としたもので、特定の売買を勧めるものではありません。チャート分析の解釈は目安であり、将来の値動きを保証するものではありません。投資の勧誘や利益を保証するものでもありません。取引は自己責任でお願いします。
