「多重共線性」とは
多重共線性(たじゅうきょうせんせい:Multicollinearity)とは、もともと、統計の「回帰分析」で使われる用語で、予測に使う複数の変数(説明変数)が、お互いに、強く相関している状態を指します。似た変数を、何個も入れても、新しい情報は、ほとんど増えず、分析の結果が、不安定になるという問題です。
この言葉を、テクニカル分析に当てはめると、「似た指標を、何個も重ねても、新しい根拠は、増えない」という意味になります。厳密には、統計用語を、たとえとして、借りていることに、なります。
| 統計(回帰分析) | テクニカル分析(たとえ) | |
|---|---|---|
| 対象 | 説明変数 | テクニカル指標 |
| 問題の状態 | 変数同士が、強く相関している | 指標同士が、似た動きをしている |
| 起きること | 変数を増やしても、情報が増えない | 指標を重ねても、確認にならない |

図のとおり、RSI・ストキャスティクス・CCIは、ほぼ同じタイミングで、買われすぎ・売られすぎの水準に入っています。3つの指標が、そろった(赤・青の帯)から、「3つの根拠が、そろった」と、考えたくなりますが、実際は、「同じ価格の動きを、3通りの形で、見ている」だけです。図の最初の帯(買われすぎ)の後も、価格は、上昇が続き、3つ目の帯(売られすぎ)の後も、下落が続いています。
なぜ、似た指標が、多いのか
ほとんどのテクニカル指標は、同じ材料(始値・高値・安値・終値、時に出来高)から、計算されています。同じ材料を、少し違う式で、加工しているだけなので、似た動きをするのは、自然なことです。
たとえば、次の関係が、あります。
- ウィリアムズ%Rは、ストキャスティクスのファスト%Kから、100を引いた値(%R = %K − 100)です。完全に同じ情報で、縦軸が、ずれているだけです
- モメンタム(差)とROC(率)は、N本前の終値との比較という、同じ考え方で、FXでは、形が、ほとんど同じになります
- RSI・ストキャスティクス・CCIは、計算式は違いますが、「直近の価格の位置・勢い」を、測る点で、共通しています
ストキャスティクス、ウィリアムズ%R、モメンタム、ROC、RSI、CCIについては、別の記事で解説しています。
相関係数で、似ているかを確かめる
相関係数(r)とは、2つの数列が、どのくらい、同じように動くかを、−1〜+1で表した値です。
r = +1 に近い = 同じように動く(同じ情報)
r = 0 に近い = 無関係に動く
r = −1 に近い = 逆に動く(これも、同じ情報を、逆向きに見ている)
計算式は、次のとおりです。
r = Σ(x − xの平均)(y − yの平均) ÷ √[ Σ(x − xの平均)² × Σ(y − yの平均)² ]
計算例:2つの指標の相関係数を、手計算する
5本の足で、ストキャスティクス(x)とRSI(y)が、次の値だったとします(例の数値です)。
| 足 | ストキャスティクス(x) | RSI(y) | x − 平均 | y − 平均 | 積 | (x − 平均)² | (y − 平均)² |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1本目 | 80 | 70 | + 18 | + 11.8 | 212.4 | 324 | 139.24 |
| 2本目 | 60 | 58 | − 2 | − 0.2 | 0.4 | 4 | 0.04 |
| 3本目 | 40 | 45 | − 22 | − 13.2 | 290.4 | 484 | 174.24 |
| 4本目 | 55 | 52 | − 7 | − 6.2 | 43.4 | 49 | 38.44 |
| 5本目 | 75 | 66 | + 13 | + 7.8 | 101.4 | 169 | 60.84 |
| 合計・平均 | 平均 62 | 平均 58.2 | 648.0 | 1,030 | 412.8 |
r = 648.0 ÷ √(1,030 × 412.8)
= 648.0 ÷ √425,184
= 648.0 ÷ 652.06
≒ 0.99
この例では、r ≒ 0.99で、ほぼ同じ動きです。実際には、もっと多くの足(数十〜数百本)で、表計算ソフトの関数(CORREL)などで、計算します。
例のデータで、計算した相関係数
約100本の、例のデータで、主な指標の相関係数を計算すると、次のようになりました(値は、データ・通貨ペア・時間足で、変わります)。
| 組み合わせ | 相関係数(例) | 見方 |
|---|---|---|
| ストキャスティクス(14)と ウィリアムズ%R(14) | 1.00 | 同じ情報(%R = %K − 100) |
| モメンタム(14)と ROC(14) | 1.00 | ほぼ同じ形 |
| RSI(14)と ストキャスティクス(14) | 0.96 | 非常によく似ている |
| ストキャスティクス(14)と CCI(14) | 0.96 | 非常によく似ている |
| RSI(14)と CCI(14) | 0.88 | よく似ている |
| RSI(14)と MACD | 0.86 | よく似ている |
| RSI(14)と ATR(14) | − 0.81 | 逆向きに、強く相関(下記の注意) |
ATR(値幅の指標)は、方向を示す指標とは、別の種類ですが、この例では、下落局面で、値幅が広がったため、RSIと、強い(逆向きの)相関が出ました。「種類が違えば、必ず、独立」とは、限りません。相関は、使うデータで、変わります。
指標の「種類」と、役割
指標を、「何を見ているか」で分けると、次のようになります。
| 種類 | 見ているもの | 代表的な指標 |
|---|---|---|
| トレンド系 | 価格の方向・傾き | 移動平均線、MACD、一目均衡表 |
| オシレーター系 | 価格の位置・勢い(買われすぎ・売られすぎ) | RSI、ストキャスティクス、CCI、ウィリアムズ%R |
| ボラティリティ系 | 値動きの大きさ | ATR、ボリンジャーバンド |
| 出来高系 | 取引(ティック)の量 | OBV、MFI、フォース・インデックス |
| 価格そのもの | 高値・安値・ローソク足の形 | サポート・レジスタンス、ローソク足パターン |
同じ種類の指標は、似た動きをしやすいため、組み合わせるなら、種類を、変えて、役割を分けるのが、基本的な考え方です。
| 役割 | 向いている種類(例) |
|---|---|
| 環境認識(方向を決める) | トレンド系、価格そのもの(サポレジ) |
| タイミング(入る位置を探す) | オシレーター系、ローソク足パターン |
| リスク管理(損切り幅・ロットを決める) | ボラティリティ系 |
トレンド系、オシレーター系、ボラティリティ系、出来高系の各指標については、別の記事で解説しています。
基本の考え方
1. 役割を決めてから、指標を選ぶ
「方向を見る指標」「タイミングを見る指標」と、役割を先に決め、それぞれに、1つずつ、選びます。「何となく、見やすいから」で増やすと、同じ役割の指標が、重なります。
2. 同じ種類・同じ役割の指標を、重ねない
RSIとストキャスティクスを、両方、買われすぎ・売られすぎの判断に使うのは、同じ役割の重複です。どちらか1つで、十分な場合が、多いです。
3. 数を、絞る
指標が増えるほど、「すべての条件が、そろう」場面は、減ります。その結果、エントリーの機会が、減るだけでなく、過去のデータに、無理に合わせた、複雑な条件(過剰最適化)に、なりやすいです。一般的な目安として、2〜3つ程度に絞ることが、多いです(固定の基準ではありません)。
4. 検証する
組み合わせた結果が、1つの指標だけの場合より、本当に、良くなるのかを、過去のデータで、確認します。
計算例:確認を増やすと、エントリー位置が、どう変わるか
直近の安値が149.60円、直近高値が150.60円だったとします。損切りは直近安値(149.60円)、利益確定は、直近高値(150.60円)とします(例の数値です)。RSIが30を上抜けた足の終値が149.95円、その後、ストキャスティクスとCCIも、買いの確認をした足の終値が150.00円、さらに、移動平均線が上向きになった足の終値が150.30円でした。
安値の近く(149.70円)に、指値で買う場合
エントリー 149.70円、損切り 149.60円、利確 150.60円
リスク = 149.70 − 149.60 = 0.10円(10pips)
リワード = 150.60 − 149.70 = 0.90円(90pips)
リスクリワード比 = 90 ÷ 10 = 9.0
RSIが、30を上抜けた足の終値(149.95円)で買う場合
エントリー 149.95円、損切り 149.60円、利確 150.60円
リスク = 149.95 − 149.60 = 0.35円(35pips)
リワード = 150.60 − 149.95 = 0.65円(65pips)
リスクリワード比 = 65 ÷ 35 ≒ 1.9
似た指標(ストキャスティクス・CCI)の確認を待って、買う場合(150.00円)
エントリー 150.00円、損切り 149.60円、利確 150.60円
リスク = 150.00 − 149.60 = 0.40円(40pips)
リワード = 150.60 − 150.00 = 0.60円(60pips)
リスクリワード比 = 60 ÷ 40 = 1.5
種類の違う指標(移動平均線の向き)の確認を待って、買う場合(150.30円)
エントリー 150.30円、損切り 149.60円、利確 150.60円
リスク = 150.30 − 149.60 = 0.70円(70pips)
リワード = 150.60 − 150.30 = 0.30円(30pips)
リスクリワード比 = 30 ÷ 70 ≒ 0.4
| エントリー | 価格 | リスク | リワード | リスクリワード比 |
|---|---|---|---|---|
| 指値(安値付近) | 149.70円 | 10pips | 90pips | 9.0 |
| RSIが30を上抜け | 149.95円 | 35pips | 65pips | 1.9 |
| 似た指標の確認を待つ | 150.00円 | 40pips | 60pips | 1.5 |
| 種類の違う指標の確認を待つ | 150.30円 | 70pips | 30pips | 0.4 |
似た指標の確認を待つと、エントリーは、5pipsしか、遅れていませんが、新しい情報は、ほとんど増えていません(リスクリワード比は、1.9から1.5へ、下がっただけ)。一方、種類の違う指標の確認は、新しい情報(方向)を加えますが、そのぶん、エントリーが、大きく遅れ、リスクリワード比は、0.4まで、下がります。確認を重ねるほど、ダマシは減りやすくなりますが、エントリーが遅れ、リスクリワード比は、下がります(スプレッドや約定のずれは、考慮していません)。この場合は、目標を広げるか、見送る判断も、必要です。指値は、149.70円まで下がらずに、反発すると、エントリーできません。また、安値を割り込むと、損切りになります。
注意点
1. 相関が高くても、低くても、有効とは限らない
相関が高い指標を重ねても、新しい情報は、増えませんが、逆に、「相関が低いから、組み合わせると、勝てる」とも、限りません。相関は、「情報の重複」を、見る目安であり、「勝てるかどうか」を、示すものでは、ありません。
2. 相関は、データによって、変わる
例のデータでは、ATRとRSIが、強い逆相関になったように、通貨ペア・時間足・期間で、相関は、変わります。自分が使う、通貨ペアと時間足で、確認する必要が、あります。
3. 条件を、増やすほど、過剰最適化になりやすい
条件を、増やして、過去のチャートに、完璧に合う、ルールを作っても、将来には、通用しないことが、あります。条件が多いほど、過去のデータへの「合わせすぎ」に、なりやすいです。
4. 確認を重ねるほど、遅れる
計算例のとおり、確認を、増やすほど、エントリーは、遅れ、リスクリワード比は、下がります。「ダマシを、減らしたい」のか、「早く入りたい」のかを、先に決めておきましょう。
5. 指標がそろっても、損失は、起きる
複数の指標が、そろっても、ダマシや、レンジ相場での損失は、なくなりません。
たとえば、3つの指標がそろった場面での買いが、損失20pipsで、9回続くと、合計−180pipsの損失です。その後の1回の利益が、200pipsなら、合計は+20pips、120pipsなら、合計は−60pipsです。この数字は、あくまで例ですが、損失を、利益で取り返せるかは、状況によって変わります。環境認識については、別の記事で解説しています。
6. 足が確定するまで、分からない
進行中の足では、すべての指標の値が、動くたびに、変わります。「3つがそろった」と見えても、足の確定までに、入れ替わることが、あります。確定後に判断しましょう。
初心者が間違えやすいポイント
指標を、たくさん重ねるほど、精度が上がると考える
似た指標を、重ねても、精度は、上がりません。画面が、複雑になり、判断が、遅れるだけに、なることも、あります。
名前が違えば、別の情報だと考える
ウィリアムズ%Rは、ストキャスティクスと、同じ情報です。名前が違っても、計算の元が同じなら、似た動きに、なります。
3つの指標がそろったら、必ず、反転すると考える
図のとおり、3つとも、買われすぎ・売られすぎでも、その後に、トレンドが、続くことが、あります。
他人の、指標の組み合わせを、そのまま使う
他人が、うまくいった組み合わせは、その人の、通貨ペア・時間足・ルールの中での、結果です。自分の条件で、検証しましょう。
検証せずに、使う
「RSIとストキャスティクスの、両方が出たら、勝てる」と聞いても、実際の成績は、通貨ペア・時間足・期間の組み合わせで変わります。自分で、確認しましょう。
まとめ
- 多重共線性は、統計で、予測に使う変数同士が、強く相関している状態。テクニカル分析では、「似た指標を重ねても、新しい根拠は、増えない」という、たとえとして使う
- ほとんどの指標は、同じ材料(価格)から計算されるため、似た動きになる。ウィリアムズ%Rは、ストキャスティクスと同じ情報(%R = %K − 100)
- 相関係数 r は、2つの数列の、動きの似かたを示す。例では、ストキャスティクスとRSIの手計算で、r ≒ 0.99。例のデータでは、RSI・ストキャスティクス・CCIは、0.88〜0.96
- 組み合わせるなら、種類と役割を分ける(環境認識・タイミング・リスク管理)。同じ役割の指標は、重ねない
- 例では、似た指標の確認を待っても、新しい情報は、ほとんど増えず、エントリーだけが遅れる(指値9.0、RSI 1.9、似た指標の確認1.5、種類の違う指標の確認0.4)。指値は、エントリーできないこともある
- 相関が低くても、有効とは限らない。相関は、データで変わり、条件を増やすほど、過剰最適化になりやすい
- 単独では判断できない。必ず機能するわけではない
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